NTE
S★★★★★Incantation#1036

残虹

“「惑乱の眼」”

ダメージ出力メイン攻撃力継続ダメージ追加攻撃

みんなに「最も隊長らしくない」と思われているE.T.D第4小隊隊長。

HP14,234
攻撃577
防御834
残虹
居住地
なし
誕生日
11月13日
解放(冒険者レベル)
4
最大覚醒
6

最大ステータス

レベル80、フル昇華時の値

HP

14,234

攻撃

577

防御

834

ドシエ

詳細情報

残虹が「スカーレット・レター」へ至る前の経歴を語ることは滅多にない。彼女にとって、その暗い過去など振り返る価値すらもない塵芥に過ぎないのだ。 事の発端は、愚かで忌まわしい秘密の実験だった。身寄りのない少女は異能を培養するための「容器」に貶められ、狂気の実験者や強欲な権力者たちは、彼女を奇跡を喚び降ろす生贄としか見ていなかった。骨を焼くような激痛、底知れぬ幽閉、肉体の損壊と再構築…正気を疑うほど奇怪な拷問が、彼女に与えられた日常だった。幾度となく生死の淵をさまよいながらも、そのたびに現世へと引きずり戻され、終わりの見えない苦痛の輪廻へと放り込まれたのだ… だが皮肉なことに、彼らの望んだ奇跡は最悪の形で顕現した。彼女の暴走した異能が爆発し、罪深い秘密の地下牢を凄惨たる血色の廃墟へと変貌させたのだ。そこに、彼女以外の生存者は誰一人としていなかった。 優雅で気品に満ちたある慈善家が、誰よりも早く廃墟に佇む異能の少女を見出し、無造作に野花を植え替えるように彼女を己の花園へと連れ帰った。慈善家を大いに喜ばせたのは、血の海から生まれ堕ち、凄絶な苦難をくぐり抜けたこの野花が、すでに比類なき強靭さをその身に宿していたことだ。それこそが、彼女の追い求めていた完璧な理想の姿であった。 こうして、「赤葵」と名付けられた花は「スカーレット・レター」の土壌に深く根を下ろす。イナンナは最も忠実な養女と、決して折れることのない最も鋭利な刃を同時に手に入れたのだ。 しかし、イナンナは知る由もなかった。この娘が、他の手駒のように容易く飼い慣らせる存在ではないということを。残虹は己の異能について一切の口を閉ざし、ただ深い影の中から人の心を暴く異眼を開き、新たな家族たちを静かに観察していた。彼女を虐げる者、媚びへつらう者、あるいは無責任な好奇心を向ける同輩たち。彼らの多くは、彼女と視線を交わしただけで精神を侵食され、無意識のうちに虚実の境界が溶け出す泥沼へと引きずり込まれた。周囲が現実か幻覚かさえ疑い始め、やがてはその疑う自我すらも奪われ、最終的には彼女の指先一つで踊る惨めな玩具へと成り果てた… 「誰の心にも、一塊の炎がある」 残虹の異眼には、人々の顔など死に絶えた退屈な灰白色にしか映らない。だが、その奥底で蠢く魂の赤だけは、絶えず生々しく燃え上がっていた。 魂の炎の色彩は千差万別だ。激しく燃え盛るもの、陰鬱に燻るもの、醜く黒ずんだもの、そして血のように禍々しい深紅のもの…だが彼女からすれば、その大半はあくびが出るほど平凡な魂であり、稀に目を引くものがあったとしても、ほんの暇つぶしの玩具にしかならない。彼らの炎が崩壊の淵で惨めに燃え尽き、絶望という名の灰を吐き出す瞬間を見届けるたび、彼女は待ち焦がれた最高傑作を鑑賞するかのように、深く甘い愉悦の笑みを浮かべるのだった。 しかし、この冷たく単調で、退屈な炎ばかりが散らばる灰色の世界において、常に一つの特別な魂だけが燦然と存在していた…最初は無垢な純白だったその炎は、やがて彼女がこれまで一度も目にしたことのない、美しくも未知なる異色へと染まり果てたのだ。 「そのきれいな色は…いつも私を虜にするの」

眩暈の深紅

未知なるものに対し、人間は常に同じような好奇心と身の程知らずな傲慢さを抱く。畏怖は恐怖へ、探究心は直接手を下すことへと変わり、やがて「征服」という種火が貪欲の導火線に完全に火をつけるまで…「異能」という超常の存在に対する一部の人々の態度は、まさにそれであった。 カルト宗派、狂信的な学会、非合法な私立研究所、秘密結社…貪欲と熱狂に駆り立てられた者たちは、血の匂いを嗅ぎつけた飢えたハイエナのように群がった。彼らはあらゆる代償を払い、あらゆる道徳や禁忌を踏みにじってでも、異能がもたらす奇跡を…あるいは、異能そのものを渇望した。 ある孤島に、「琢目鳥」と呼ばれる秘密結社が存在した。その狂信者たちはある邪説を妄信していた——異能とは神秘なる者の恩恵であり、その恩恵は特別な瞳を持つ幸運な子供にのみ降り注ぐのだ、と。彼らは適合者を各地から攫い、異能を覚醒させるための「容器」として地下牢に幽閉した。そして、毎日強力な劇薬で彼らの目を執拗に洗ったのだ。そうやって異能を人為的に刺激し、最終的にその眼球を自分に移植すれば、異能を完全に己のものにできると狂信していたのである。 残虹の最も古い記憶は、その荒唐無稽でひどく残酷な地下牢から始まる。 幼い少女は、宝石のように美しい瞳を持っていた。初めて会う人間は皆その瞳を覗き込もうとしたが、生まれつき色彩感覚を持たない彼女にとって、人間などただの灰白色の肉の塊にしか見えず、彼らの意図など到底理解できなかった。そしてさらに理解できなかったのは、強欲と愚昧に突き動かされた人間の悪行が、一体どこまで残虐になれるのかということだった。「琢目鳥」がその眼球を目当てに彼女を拉致して以来、彼女の存在意義の全ては一つしかなかった。毎日冷たい台に手足を拘束され、無理やり瞼を開けられ、焼け焦げるように痛む濁った劇薬が眼球に滴り落ちるのを震えながら見つめ続けること。そしてその直後、視界を奪うほどの激痛に苛まれながら、周囲を取り囲む狂信者たちの邪悪な祈り文句に耳を傾け続けることだ。 強欲を貪る悪鬼たちは、日夜その荒唐無稽な妄想を顧みることもなく、自らの残酷な仮説を実行に移し続けた。しかし皮肉なことに、残虹はこの非人道的な拷問の果てに、本当にその眼球へ宿る「異能」を覚醒させてしまったのだ。いよいよ彼女が眼球摘出の儀式の場に引きずり出された時、結社のメンバーたちはその瞳の所有権をめぐって醜く争い始め、それぞれの隠された社会的地位を剥き出しにした。ある者は権力者、ある者は大豪商、またある者は名声ある一族の長…醜悪な怒号が次第に騒がしく、そして曖昧に遠ざかっていく中、麻酔による混濁の底で、残虹は白と黒以外の「最初の色」を見た。それはひどく温かく、圧倒的に目を奪う色だった。燃え盛る魂の炎から噴き出し、狂信者たちが互いを切り裂く傷口から噴き出し、たちまち彼女の周囲を取り囲む深紅の沼となった… その日、「惑乱の眼」がもたらした狂気の幻境が孤島全体を覆い尽くした。互いを疑い、醜く欲をかき合った凶悪犯たちは、終わりのない幻覚の中で血みどろの殺し合いを演じ、生存者はただの1人もいなくなった。

蜘蛛と花

息絶えた者たちが作り出した凄惨な血の海の中で、残虹は恐ろしいほどに鮮烈で、美しい赤を見た。 その赤を纏う主が、ゆっくりと彼女へ歩み寄ってくる。硬質なハイヒールの足音が、死に絶えた地下牢に冷たく響き渡った。やがて足音が止むと、代わりに紡がれたベルベットのように艶やかで甘い声が、未だ震えの収まらない少女の魂を優しく包み込もうとした。 「あなたの姿を見せてちょうだい、哀れな花びらさん」 「今日から、スカーレット・レターがあなたの家よ」 家…って何? 目の前に立つ女は、少女に「家」という未知の約束を与え、温もりのある抱擁と、汚れた髪を優しく撫でる指先を与えてくれた。少女にはその言葉の真意など理解できなかったが、向けられた声と肌の触れ合いが、これまで知るどんなものよりも柔らかく、心地よいことだけは確かに感じ取れた。 「私を、お母様と呼ぶといいわ」 残虹は警戒心を解かぬまま、目の前の背の高い女をじっと見つめ返した。彼女の慈愛に満ちた瞳の奥底には、無上の財宝を掘り当てたような、底知れぬ強欲な笑みが潜んでいた。女の魂の炎は、そのドレスのように深く美しい真紅に染まっており、貪欲にうねる火の舌が少女の目の前で激しく燃え盛り、今にも彼女のすべてを呑み込もうとしていた。 それでも彼女は、自らその炎に身を委ねるように、心からその一言を口にした。 「お母様」

花を探して

「スカーレット・レター」の花園では色とりどりの多くの花が育てられており、慈悲深きイナンナは彼女たちを優しくいたわり、恵みの雨を降らせては、余分な枝を剪定していた。その中で彼女の一番のお気に入りとなった花には、特別な新しい名前が授けられた——「赤葵」も、その幸運な一つだった。 しかし残虹だけは気付いていた。お母様は決して花そのものを愛しているのではなく、支配下にある花園の中心に身を置き、全てを見下ろす絶対的な優越感を楽しんでいるだけなのだと。 スカーレット・レターの豪奢な邸宅の奥深くで、イナンナはもはや己の本性を隠そうともしなかった。寛大で感性豊かな慈善家という顔はあくまでも表向きの飾りに過ぎず、彼女の腹の底には冷徹な商人としての損得勘定と底なしの貪欲さ、そして上流階級の仲間入りを果たしてから日に日に肥大化していく強烈な傲慢さしか詰まっていなかった。彼女はまるで血のように赤い巨大な高塔として、花園の少女たちの上に恐ろしく、そして逃れられない影を落としていた。 イナンナは娘たちを完全に支配するため、常にアメとムチを巧みに使い分けた。中でも残虹に対する訓練という名の体罰はとりわけ苛烈を極めた。しかし残虹は、それを少しも気にも留めていなかった。あの地獄のような地下牢での経験が、彼女の痛覚と恐怖をとうに麻痺させてしまっていたのだ。どれほど非道な拷問を受けたあとでも、彼女は涼しい顔で母親に絶対の忠誠を捧げ、母親が課した血生臭い任務を完璧に遂行し続けた。そして、無力な他の姉妹たちが母親の手によって握り潰され、その運命を無残に弄ばれている姿を目撃するうち、残虹は自分もまたこの歪んだ花園の中で、極上の「楽しみ」を見つけられることに気がついたのだ。 残虹の「惑乱の眼」は、他者の感情を見抜くだけでなく、その味を直接「味わう」ことができる。恐怖が放つ生臭い甘さ、絶望から滲む強烈な酸っぱさ、憎悪がもたらす焼け付くような辛さ…追い詰められた姉妹たちの極限の感情は、飢えた残虹の心を満たす最高の糧となった。そうして他者の心を貪るうちに、残虹は母親の歪んだ嗜好を心底から理解していった。 彼女の異質な右眼は、常に最も鮮烈な色を放つ魂を探し求めていた。それはまるで、美しい花を鑑賞し、根元から無慈悲に摘み取る行為に似ていた。夜の闇に包まれた邸宅のどこかで心地よいすすり泣きが響き、追い詰められた魂の火種が激しく揺らめくたび、残虹は喜んでその暗がりへと駆けつけ、絶望する儚い花に優しい言葉で慰めをもたらし——その後、完全にコントロールし、徹底的に弄び、最後にはボロ雑巾のように捨て去った。心が揺れ動き、脆くも崩れ去る寸前だった哀れな妹たちは皆、彼女の甘い言葉と幻覚の視線のもとで、至上の救済を与えられたと信じ込んだまま堕ちていった。 しかし、そのような極上の喜びは決して長くは続かなかった。少女たちの脆弱な精神は「惑乱の眼」の執拗な注視によってすぐに摩耗して崩壊し、ただ残虹に使役されるだけの感情を持たない廃人と化してしまった。その魂の色はひどく薄れ、まるで水分の抜けた枯れ花のように、ひどく退屈で味気ないものへと変わっていった。 けれど、そんなことは大した問題ではない。「スカーレット・レター」の花園は、狂おしいほど広大なのだ。この花が枯れ落ちても、必ずまた次のおいしい花が咲くのだから。

お姉様、お姉様

邸宅にひしめく全ての姉妹の中で、たった1人だけ、残虹が目を合わせる際に無意識に己の異能を抑え込んでしまう相手がいた。 そしてその1人だけが、彼女がいまだかつて見たこともないほどに美しい魂を持っていたのだ。それは不純物を一切持たない透明な蒼白い炎であり、まるで夜明けを告げる澄み渡った一筋の光のようだった。まるで神の奇跡の光景でも目にしたかのように、出会った最初の瞬間、残虹は無意識に口走っていた… 「なんてきれいな色なの…」 しかし、ダフォディールという名の白衣の少女にはその言葉の意味が理解できず、ただ養母の命令に従うまま、車のドアに向かって静かに腰をかがめて一礼し、新しい妹を迎えるために優しく手を伸ばした。 「お帰りなさい、妹よ」 残虹は手を伸ばして彼女に近づいた。執着と異常な好奇心がその右眼に凝縮され、どこか凄惨で狂気じみた笑みが幼い少女の顔に浮かぶ。彼女は奪い取るかのように、差し出されたその手を強く握り締めた。姉の身体を自分へと引き寄せ、まるでその真っ白で純粋な炎の中に自分自身を投げ込もうとするかのように… この少しばかり予想外な出会いの後、2人は養母に命じられるまま相棒となり、姉妹となり、家族となった。 残虹ははっきりと知っていた。自分とこのお姉様は、決して同類ではないということを。だが、それがどうしたというのだ?2つの正反対の同義語。共に行動することこそが2人に定められた運命であり、「スカーレット・レター」の歪な花園には無数の茨と蔓が絡み合い、死ぬまで2人を縛り付けて離さないのだ。2人は同じ血の泥沼に足を踏み入れ、同じ冷たいベッドを共有し、同じ凄惨な戦場へと向かい、やがて同じ墓場へと帰る。だからこそ、2人は誰よりも親密な唯一の家族なのだ。 彼女は日夜、ダフォディールを見つめ続けた。己の特別なその右眼で。イナンナに最も早く引き取られた娘として、ダフォディールの心は確固たる意志を持ちながらも完全に麻痺しており、まるで一塊の頑丈な石のようだった。どれほど残酷で厳しい任務に直面しても、一切動揺することなく母親の期待に完璧に応え、標的の命を排除する際には、なおのこと感情を持たない一台の機械のように冷静だった…しかし、そんな冷酷なお姉様は、毎回任務や折檻が終わった後には、いつも優しく彼女の傷を癒やしてくれたのだ。けれど、たとえ温もりに満ちたそんな時間であっても、彼女が自らの感情を口に出すことは滅多になかった。 …だがその後、どういうわけか、完璧だったお姉様は変わってしまった。刃を振るう際のあの果断さと冷淡さは、いつしか眉をひそめるような生ぬるい躊躇いとなり、夜の闇に紛れて小さく吐き出される憂鬱と困惑の吐息が日に日に増していった。それ以来、あの真っ白で安定していた魂の火種が時折弱々しく揺らぐようになり、その変化の全てが残虹の眼に克明に焼き付けられていた。 「へぇ、お姉様にそんな人間らしい一面があったのね」 残虹はダフォディールを見つめ続けた。まるで、今にも咲きこぼれそうな美しい蕾を見つめるかのように。もしお姉様の心が本当に弱くなってしまったのなら、お母様によってお姉様が完全に破壊され、ゴミのように捨てられてしまう前に、この手で彼女を「自分の一番大切なコレクション」に変えてしまおう…彼女はほんの少しの心残りを抱きながら、その素晴らしい日が訪れるのを狂おしいほど楽しみに待っていた。

一羽のウサギ

「…裏庭の隅に、一羽のウサギがいる」 「キャベツの葉をあげたら、全部食べた。噛まれたりしなかった…」 残虹はダフォディールのたどたどしい話を聞きながら微笑みを浮かべていたが、その内心では複雑な思考がどろどろと絡み合っていた。 彼女には、あのウサギの何が愛おしいのか到底理解できなかった。ただの赤い目をした、薄汚れた灰色の実験動物に過ぎない。そんな一羽の獣ごときが、なぜ愛しいお姉様にあんな…無防備に緩んだ表情をさせるのか、どうしても分からなかったのだ。 しかしそれからの数ヶ月、裏庭で理不尽な体罰を受ける時間になると、ダフォディールは隠れてこっそりとあのウサギを見つめ、残虹はそんな彼女だけをじっと見つめ続けた。肌を裂く痛みに耐えている時でさえ、お姉様の眼差しはひどく柔らかく解けていた。残虹は時折、冷たい思考の片隅で思う。このような弱く甘い眼差しは、きっとお母様には決して許されないだろう、と。 ある日、ダフォディールはいつもの薄暗い隅で、冷たくなったウサギの死骸だけを見つけた。彼女は一日中深い沈黙に沈み込み、夜の闇が降りる前に、自室のドアに重い鍵をかけた。 残虹が執拗にノックし続けて、ようやくそのドアが重々しく開かれた。お姉様のうつろな視線は力なく床に落ち、その魂の炎は、吹き荒れる風の中で燻る火種のように頼りなく揺れ動いていた。残虹の異眼は、その揺らめきから明確な酸っぱい味を捉えた。愛しいお姉様から、これほどまでに生々しく動揺した感情を味わったのは初めてのことだった。 彼女はそっと探るように手を伸ばし、絶望に沈むお姉様の細い身体をゆっくりと胸に引き寄せた。お姉様が一瞬だけ躊躇うのを感じたが、やがて全てを投げ出したかのように、何の抵抗もなくその顔を残虹の肩に埋めてきた。二人の微熱を帯びた体温が重なり合った瞬間、残虹は深い優越感とともに心の底で満足の溜息をついた。彼女は今や、あの忌々しいウサギの死に心から感謝すらしていたのだ。 「もしかしたら、お姉様がまたあのウサギの死体を思い出した時、私が手を下したのではないかと疑うかもしれないわね」 愛するお姉様がこの場所から逃亡した後の数え切れない夜、残虹はひとり暗闇の中で、よくあの冷たいウサギの死骸を思い出していた。 けれど、もうお姉様が真相を問い詰めてくることはないし、残虹からあえて口にすることもない。それどころか、次にいつ愛しいお姉様と再会できるのかさえ分からないのだ。 だが、彼女の心に未練など微塵もなかった。なぜならこの残酷な物語の結末で、自分とお姉様のどちらかが、必ずもう一方の手によって命を散らす宿命にあると知っていたからだ。血塗られた最期の死に際で、あのウサギの話題を最愛のお別れの言葉にするのも、決して悪くないかもしれない。 「お姉様、私は本当にあのウサギを殺していないのよ」

危険な眼差し

残虹とダフォディールは、かつて「スカーレット・レター」の中で最も鋭く、最も恐れられる2本の刀だった。2人が共に浴び、染まり続けてきた罪悪の血の量は、互いの心にぽっかりと開いた空洞と全く同じ大きさだった。 地獄のような試練を重ね、血生臭い任務を重ね、2人は母親の野望を阻むあらゆる障害を排除し、母親にとって最も使い勝手の良い2本の凶刃となっていった。残虹は自分が単なる血塗られた刀として扱われることを、少しも気に留めてはいなかった。彼女はただ、あらゆる残酷な瞬間の中で、隣に立つダフォディールの姿を長く、じっと見つめ続けていただけだったのだ。 刀として、彼女は母親が排除すべきあらゆる組織の障害や暗黙のルールを熟知していた。しかし、感情を持つ1人の人間として、彼女が心の底から熟知しているのはダフォディールという存在だけだった。 ダフォディールはいつも凄惨な任務を終えた後、鏡に向かって深く思索しながら無言で傷の手当てをしていた。そして毎回、残虹はその極度に疲弊し、憂鬱に沈み、傷だらけでありながらも、なお息を呑むほど美しい姉の後ろ姿を黙って堪能した。そしていつものように己の残酷な異能と優しい抱擁で、お姉様の心に兆した微かな疑念を散らしていったのだった。 だがある日ついに、その抑え込んでいた疑念が決定的な結果をもたらした。 ある任務の最中、本来なら無慈悲にターゲットへ刃を振り下ろすべきその瞬間に、ダフォディールは無様に命乞いをするターゲットをじっと見つめ、どうしてもトドメを刺そうとしなかったのだ。残虹は、刀を握る姉の手が微かに震えているのを見た。そして同時に、命乞いをする標的の目に隠された、狡猾な殺意をも見抜いていた。その瞬間、残虹の心の中に最高に危険な考えが芽生えたのだ。 それは一瞬の出来事だった。命乞いをする標的の手から放たれた暗器の冷たい光が、隙だらけのお姉様の急所に向かって飛んでいく。残虹はわざとお姉様の前に立ち塞がり、あらかじめ予測していたその一撃を自らの体で受け止め、狂喜の笑みを浮かべながら、その狡猾な敵に自らの手でとどめを刺した… 急所をわずかに外れた傷口から生温かい血が溢れ出したが、十分に耐えられる程度の痛みだった。残虹は荒い息を吐きながらゆっくりと目を上げ、決定的な過ちを犯した愛しいお姉様を見つめた。ダフォディールの刀を握る手が完全に震えて緩むのが見え、こちらへ駆け寄る切羽詰まった足音と、激しく震える声での謝罪が耳に届いた。 「あぁ。ついに、あなたもあの愚かな妹たちと同じくらい、脆く弱ってしまったのね」 残虹は、目の前でかつてないほど激しく動揺して揺らめく白い炎をじっと見つめながら、心の中で狂おしく呟いた。 彼女はこれまで何度も、何度も想像していた。無意識に抑え込んでいた己の異能を完全に解放し、その眼で惜しみなくお姉様の全てを見抜き、2人だけの終わらない幻境に引きずり込み、その頑丈な心の防壁を粉々に打ち破り、美しい嗜好を歪め、記憶さえも自分の都合の良いように操作して――彼女が完全に感性的で退屈な俗人に成り下がる前に、己だけの玩具として永遠の狂気に溺れさせてしまおうと。 しかし、彼女はどうしても、最後の最後でその欲望を耐え切ってしまった。 柔らかく脆くなり、激しく動揺してなお、この不完全な白い火種は狂おしいほどに残虹を魅了したのだ。彼女はもう、これ以上この美しい炎を摩耗させたくはなかった。完璧すぎる獲物を前にして、どうしても引き金を引き絞れない哀れなハンターのように。彼女はただ、この残酷なまでの完全さを永遠に残しておきたいと、血の涙を流すように切望していたのだ。

新たな色彩

お姉様がいつから決定的に変わってしまったのか。そして、その変化に微塵も気づかず彼女を盲信しきっていた自分が、どれほど滑稽で愚かだったのか――残虹は今でも、その呪いのような記憶を骨の髄まで噛み締めている。 発端はイナンナが主催したオークションでのことだった。会場の警備を担当していたダフォディールは指示された計画通りには行動せず、不可解な失踪の後に、少し惨めな姿で戻ってきたのだ。彼女は痛ましげに左目を押さえ、ただ「事故があった」という短い一言だけで遭遇した出来事の全てをうやむやにした。愛するお姉様の美しい容姿が損なわれたことに残虹は激怒し、その後のいくつかの任務で彼女が振るうやり口は、以前にも増して残虐で凶暴なものになった。それからの数ヶ月間、ダフォディールは隠すように眼帯を着用していた。落ち込むお姉様を慰めるため、残虹もわざわざ何の役にも立たないお揃いの眼帯を特注で作った。それを無邪気に自慢げに見せた時、お姉様はただ呆然として、どこか悲しげに笑うだけだった。 しかし残虹は、夢にも考えもしなかったのだ。その眼帯の下に、一体どれほど恐ろしい秘密が隠されていたのかを。 あの凄惨な大雨の夜、彼女は血の海に倒れ伏す絶対的な母・イナンナと、眼帯を外し、冷たい鋭刃を手に見下ろす「異能者」ダフォディールの姿を目撃した。絶対者であったお母様の血が、お姉様の純白の襟元を痛いほどに刺すような深紅へと染め上げていた。そしてあの炎…あの純粋で透明だった白の炎はすでになく、以前とも、他のどの有象無象の魂とも決定的に異なる、残虹が生涯一度も見たことのない「恐ろしいほど高潔な色」へと変貌を遂げていたのだった。 残虹は目の前に広がる信じ難い混乱を、なんとか必死に理解しようとした。しかし、あまりにも多くの疑問が脳内で激しく衝突し、思考を焼き切っていた。お姉様が反逆した理由が分からず、お姉様が隠し持っていた強大な異能がどこから来たのか分からず、さらに彼女の魂が放つあの異色の炎が、一体何を表しているのかも全く分からなかった。そして当のダフォディールは…ただ取り返しのつかない大きな過ちを犯した子どものように、激しく怯え、罪悪感に苛まれ、途方に暮れて荒い息を吐きながら、血塗られた凶器を握りしめた手を緩めることすら忘れて立ち尽くしていた。 やがてお姉様は重い沈黙を守ったまま夜闇へと逃げ去り、その鮮烈な魂の色は、スカーレット・レターという呪われた花園の垣根の向こうへと完全に消え去った。 残虹は彼女を引き留めることすら忘れ、血の海の中で生死の境を彷徨うお母様のことすらも完全に忘れ去り、彼女の思考と本能の全ては、視線と共にお姉様が去った方向へとただただ釘付けになっていた。どれほどの時が流れたのだろう。彼女はようやく、震える唇から最初の言葉をこぼした。それはいままでお姉様に向けて何度も発してきた言葉でありながら、そのどれとも決定的に意味の異なる一言だった。 「なんてきれいな色なの…」

宿命の再会

お母様はお姉様による暗殺の刃を受けても、命を落とすことはなかった。昏睡から目を覚まし、傷を癒やした彼女は、何事もなかったかのように平然と振る舞っていた。だが、残虹は少しも驚かなかった。お姉様の刺殺技術は疑いようもなく完璧だったが、お母様ほど狡猾な人間が、死を免れる奥の手を用意していないはずがなかったのだ。彼女は相変わらず優雅で華やかな慈善家を気取り、言葉の端々からもダフォディールの逃亡など微塵も気にしていないように見えた。 しかし、人の心を暴く残虹の異眼には、その内側に生じた致命的な変化がはっきりと見えていた。 かつてのお母様の魂は常に平穏で冷淡、神のような傲慢さすら湛えていたというのに、あの刺殺劇を経てからは酷く疑い深く、些細なことで苛立ち、常に権力の座から引きずり下ろされる不安に怯えていた…その見苦しい様は、彼女らが葬ってきた俗っぽく退屈なターゲットたちとまったく同じだった。 残虹の記憶にそびえ立っていた絶対的な深紅の高塔は、すでに無惨な崩壊を迎えていたが、今の彼女にとってそんなことはどうでもよかった。 彼女の心を焦がす唯一の欲望は、あの夜突然逃げ出してしまった愛しいお姉様を、再び自分の腕の中に連れ戻すことだけだった… お母様は心の穴を埋めるように、相変わらず新しい「妹」を次々と連れて帰ってきた。暗殺の恐怖からか、彼女は自分に絶対的な安心感を与えてくれる従順で弱い子を偏愛するようになり、ポセットという名の少女がまさにその条件に当てはまった。残虹は最初、彼女をただの新しい花として適当に弄んで捨てるつもりだった。しかし意外なことに、この新しい玩具には思いのほか面白い部分があった。早熟で世渡り上手な彼女は、愛嬌のある容姿と巧みな演技力で素顔を隠し、お母様の異常な偏愛や気まぐれな拷問を受けても、決してその本性をすり減らすことがなかった…手厚く水をやる必要のある温室の花というよりは、踏まれても千切れないしなやかな雑草のようだった——しかも、引き取られて間もないというのに、スカーレット・レターから逃亡する計画を密かに立てていたのだ。その見事な欺瞞を見破った残虹はすっかり興味を惹かれ、積極的にお母様に彼女の引き上げと命名を勧め、それ以来自分と共にイナンナの側近として仕えさせた。命の危機を覚えたこの利発な妹も、残虹のすべてを見透かす視線に気づき、おとなしく同意して忠誠の演技を続けるしかなかった… ささやかな暇つぶしを見つけたとはいえ、それでも心に空いたお姉様の大きな穴を埋めることなど到底できなかった。その後も残虹は、ダフォディールの美しく特別な魂に匹敵する誰かに出会うことはなく、不在のお姉様への焦がれるような思いは日に日に狂おしく募っていった… そしてついに、長年にわたる執念の調査の末、彼女は愛しいお姉様の足取りを掴んだ——それはヘテロシティの片隅にある古い骨董品店だった。あんなにも気高いお姉様を育てるには、あまりにも不釣り合いで貧相な植木鉢だった。 運の良いことに、イナンナの次のターゲットはまさにそのヘテロシティに潜伏していた。残虹は歓喜を胸に隠して任務を引き受け、すぐさま様子を探りに向かった。彼女は毎日様々な通行人に化けては、エイボンの店の前を執拗に何度も通り過ぎ、そしてついに、あの久しく会っていなかった愛しい顔を直接この目に焼き付けたのだ。 彼女は溢れ出す歓喜の笑いを必死に押し殺し、薄暗い路地へと身を隠すと、きつく胸を押さえた。高鳴る心臓が、まるで嵐の夜の波のように激しく脈打っていた。 「今度こそ、絶対に私のそばから逃がさないわ、お姉様」